海上自衛隊 ヘリ搭載護衛艦くらま 最後の航海 その3

      2018/07/06

いよいよ内部に潜入です、まずは艦の運転室である艦橋(ブリッジ)へ、そびえたつような大きな艦橋構造物は、外から見ると4階立てのビルくらいの大きさでしょうか。

 

外観と比べるとさほど広くない印象の艦橋内。やや古いタイプの計器類、操縦コンソールが並んでいます、上から伸びているラッパのついたパイプは伝声管です。ときおり目の覚めるようなラッパの音が響いて、それを合図に隊員さん達も機敏な動作でせわしなく動いています。

さあ出港です。多くの隊員さんがタラップをはずして、佐世保港倉島岸壁を離岸して一路南にある港の出口を目指します。

奥の山は弓張岳、手前に多くの灰色の艦艇が停泊しているのが立神岸壁です、一番右側の空母のような艦は米軍の強襲揚陸艦ボノムリシャール、そこから順に、海上自衛隊の護衛艦しまかぜ、補給艦おうみ、はまな、むらさめ型、あさぎり型が停泊しているようです。左の丸い機械は探照灯、発光信号を出す時に使います。

くらまは比較的大きな艦艇ですが通路は狭いです。人がすれ違うのがやっとといった印象。階段もとても急です、頭を打たないように注意しながら上り下りします。

通路には盾がたくさん飾られていました。36年の間、多くの交流があったのであろう事がしのばれます。

機関室。たくさんのアナログな計器類が所狭しと並んでいて、室内には緊張感が漂っていました。実は海上自衛隊の護衛艦はくらまは海上自衛隊で最後の蒸気タービン機関を使っている艦です。第二次大戦期の軍艦と同じ構造のエンジンで(もちろん当時の物よりバージョンアップはされていますが)航行中の艦内には他の護衛艦のガスタービン機関とはちょっと違う独特なエンジン音が常に鳴り響いています。

計器類の上には罐内の炎が常にモニターできるようになっていました、文字通りくらまの命の炎が明々と燃えています。

艦内神社です。海上自衛隊の艦艇には必ず小さな神社があります。最新の科学の粋を結集したハイテク艦の中に日本古来からの神道の神社があるのは面白いですね、くらまの艦内には貴船神社の神様が鎮まっておられましたので、今日の航海の安全を祈ります。

お風呂もせまい!湯船のお湯は海水の日もあり、上がる直前に真水のシャワーで海水を落とすそうです。当然真水は貴重なので常に節水を心がけておられる様子がユニークな注意書きにも見て取れます。

2機の哨戒ヘリが同時に駐機できる広いヘリコプター甲板、ひゅうが型ヘリ搭載護衛艦が就役するまでは海自最大のヘリ甲板でした。

甲板の階段を下ると艦尾へ進めます。今日は喫煙スペースになっていました。いわゆる煙缶もありましたよ。一番後ろには目立つ黄色で塗装された大きな魚型の装置が、戦術曳航ソナーTACTASS(タックタス)が装備されています。自艦騒音から離れた位置に展開し、海中の広い範囲、さらに変温層の下に隠れた潜水艦の音も探知できる装置です。

この艦の大きな特徴であるヘリコプター格納庫です、縦横に太いパイプや梁、クレーンのレール等が張り巡らされています、巨大な格納庫には3機のヘリコプターが格納できるようになっていて、壁側には多くのヘリ整備用の工具などが並んでいます。この日は一般公開なので紅白の垂れ幕がかかっていました。

この日、格納庫では去年の第4回GC1グランプリ(”G”oeikan ”C”urry)で優勝を果たした「護衛艦くらまカレー」が振舞われていました。甘めの口当たりの後、ピリっと辛味が来る絶妙な辛さで、多くの隊員の好みに合わせて甘党にも辛党にも合うように作られているような印象を受けました。もうすぐレトルトで商品化するそうですので皆さんのお口に届く日も近いのではないでしょうか。佐世保の新しい名物お土産になりそうです。海を行くくらまは佐世保港を南下して湾外へ。写真は湾の出口の北側、向後崎。灯台や監視所が見えます。

湾を抜けてしばらくすると、後ろから高速ミサイル艇はやぶさ型しらたかが、轟音と共に猛然と波を蹴立ててくらまの右舷をパスして行きます。50mの中型の艦ですがまるでモーターボートのような機動でくらまの前へ出て反対側の左舷を通過するデモンストレーションを見せてくれました。このあたりで反転して佐世保港へと転針します。

空からも爆音が近づいて来ました、海上自衛隊大村基地から飛び立った哨戒ヘリコプターSH-60Kが後部ヘリ甲板に着艦の為アプローチしてきます。近づくにつれ、大きなローター音とそのローターが起こす風”ダウンウォッシュ”に体がたじろぎます。

そして見事着艦!51298回目の着艦は当然のように成功です。波の揺れと海風とに煽られながら、空中から見ればごく狭いヘリ甲板への着艦は当然難しい作業ですが、それを感じさせない安定感がありました。

ヘリ展示が終了するとくらまはそのまま佐世保へと帰港しました。

 

この日の格納庫内には「その先へ、三十六年の航跡」とのスローガンが掲示されていました。長きに渡って佐世保の海上自衛隊を代表する護衛艦だったくらまはまもなく退役を迎えますが、現在とこれからも続く未来の日本周辺の海の安全を、今後も海上自衛隊が護っていく、その宣言のように感じました。

まるで富士山のような三角錐を描く美しい艦影のくらま。

 

退役して私たちの前から消えたとしても、これからも日本人、佐世保市民の心の中に残り続けるでしょう。36年もの長い間、お疲れ様でした。ありがとうございました。

 

 

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