弾道ミサイル実験と自衛隊法
2018/07/10
さて先日の2017年8月29日、北朝鮮の「火星12型」とみられる弾道ミサイルが日本領土上空を通過しました。今回で日本上空を飛び越す軌道を取るのは通算5度目です。
今回は発射角度、高度が高くなるが飛距離が短い「ロフテッド軌道」ではなく、いわゆる通常の軌道である「ミニマムエナジー軌道」と呼ばれる軌道を描いて襟裳岬沖1180キロ東の海上に落下したと報道されています。
早朝の穏やかな空気を打ち破るJアラートの発報は国民保護の為必要な措置ではありますが、ファミスタのフライの音にも似た一種独特な音は多くの日本人を不安にさせた事でしょう。
弾道ミサイルの迎撃について「我が家の上空を通過するものを黙って見過ごすのか」「国際社会や北朝鮮に対して日本もやるときはやるんだとの気概を見せるべきだ」「北の弾道ミサイルが飛来したら即迎撃しよう、訓練にもなる」などの本音の意見も耳にします。
BMDで弾道ミサイルを撃墜する事は理論上は可能です、自衛隊では発射時間や場所を隠匿した実戦さながらの訓練もしっかり行っており、それでも撃墜に成功しています。とはいえ100%撃墜できる訳ではない、と言うのが専門家の分析のようです。特に複数の弾道ミサイルの一斉発射=「飽和攻撃」されてしまえば撃ち漏らしも発生し、国民の生命、財産に被害が及ぶ可能性は高いでしょう。
しかし日本には今回の弾道ミサイルを迎撃できない根本的な理由があります。
「どうせ憲法9条でしょ」と言われる向きもありますが、そうではありません。
実は、自衛隊には一般的な他国の「軍法」に当たる「自衛隊法」がありますがその第82条の3に「弾道ミサイル等に対する破壊措置」があります、
ーーー防衛大臣は、弾道ミサイル等が我が国に飛来するおそれがあり、その落下による我が国領域における人命又は財産に対する被害を防止するため必要があると認めるときは、内閣総理大臣の承認を得て自衛隊の部隊に対し、我が国に向けて現に飛来する弾道ミサイル等を我が国領域又は公海の上空において破壊する措置をとるべき旨を命ずることができるーーー
今回の弾道ミサイルは日本の領域=領土、領海上空を「通過」しました、「被害を防止するため必要があると認められなかった」のです。この為、法律上の用件を満たしていなかった自衛隊は迎撃の為の措置を取ることが出来なかったのです。
もう一つ言えば実戦ではなく実験の段階で、日本の手の内を晒すのは避けたかったという理由もあるでしょう。
「自衛隊法」は他国の「軍法」と違うところがあります。自衛隊法は、法律の文章の中に「やっていいこと」が書かれています。これを「ポジティブリスト」と呼びます。上記の条文の末尾を見てください「破壊する措置をとるべき旨を命ずることが”できる”」と書かれています。
逆に言えば条文に書かれている行動しか出来ないのです。
これに対し一般的な他国の「軍法」では「やってはいけないこと」が書かれています。これは「ネガティブリスト」と呼ばれています。
「やってはいけないこと」が書かれているという事は、逆を言えば国民の生命、財産を護る為に、軍法に書かれている事以外は何をやってもいいワケです。
双方の法律で軍隊の自由度が高いのは圧倒的にネガティブリストの方で、自衛隊法がポジティブリスト方式ままで戦端が開かれた場合にはとんでもないハンディを背負う事になります、
敵と戦闘が起こってしまえばなにが起こるかわかりません。いかに様々な状況を想定しているとはいえ、条文に書いてある事が生起する可能性の方が少ないのは目に見えています。
一刻も早い自衛隊法の抜本的な改正が必要なのですが、この問題を知る日本人は極めて少ないのが現状です。読者のみなさんには、まずこのような問題が存在すると言うことを知っていただきたい、そう思います。
今日もにゅ~ぺとりをご覧頂きありがとうございました。